エメラルド・タブレット

「こは偽りなき真実にして、確実にして極めて真正なり」

【漫画】紫色のクオリア(原作:うえお久光、作画:綱島志朗)

「毬井ゆかりはニンゲンがロボットにみえる。それは、変えることのできない彼女の絶対条件――」

 原作のイラストレーターが漫画版を手掛けるのは、ファンにとって幸運なことだ。更に綱島志朗は元々漫画家なわけだから、原作の見どころを的確に汲み取って漫画にしている。面白くないわけがない。

 主人公・毬井ゆかりは人間がロボットに見えるという変わった少女だ。彼女の視点では人間にセンサーやバーニアがついているように見える。序盤は友人・波濤学との交流を通じて、彼女の異質さと愛らしさを読者に堪能させ、徐々に決定的な「違い」を描くストーリーは丁寧に原作をなぞっている。

 原作の1話目がまるごと1冊に収まっているのも嬉しいところ。

 

「警告しよう。ここから物語は、急変する――」 

 SFとしても評価が高い第2話『1/1,000,000,000のキス』の開幕。『紫色のクオリア』は2話目からが本番だ。第1巻で毬井ゆかりの異質さと友情のストーリーを前提に、2話目からは波濤学が主人公となる。とはいえ物語の軸はやはり毬井ゆかりだ。

 転校生アリス・フォイルは数式が絵に見え、絵を描くことで計算を行なうことができる天才だ。毬井ゆかりは彼女から天才を保護育成する機関ジョウントに勧誘される。突然の海外留学の誘いに戸惑ったものの、波濤学は毬井ゆかりのためを思って彼女の背中を押すことにした。それが悲劇の始まりとなることも知らずに。

 エヴェレットの多世界解釈万物理論などSF要素てんこ盛りで物語は急激にスケールを拡大していく。

 組織名やキャラクターの名前にアルフレッド・ベスターの名作『虎よ、虎よ!』から名前を拝借しているのも個人的にはポイントが高い。

 

 原作はもちろん名著だ。漫画版が気に入って、活字に抵抗が無ければ是非。