エメラルド・タブレット

「こは偽りなき真実にして、確実にして極めて真正なり」

【ミステリ】折れた竜骨(著者:米澤 穂信)

 

「我々の使命を果たし、かつ自らを律するため、我々は真実を明らかにするにあたって一つの儀式を行います」

 

 『折れた竜骨』は『氷菓』の作者である米澤穂信のミステリだ。しかしこの『折れた竜骨』、中世を舞台にしたファンタジーであるから堪らない。剣と魔法の世界観でありながら推理小説の王道を行くのだ。

 

 北海にあるソロン諸島の領主を父にもつアミーナは、騎士ファルクと従者ニコラに出会う。この騎士たちは魔術による殺人を請け負う暗殺騎士を追っているというのだ。とある事情から島の防備を固めるために傭兵を募っていた領主の元には、怪しげな連中が集まっていた。

 そして領主が不審な死を遂げる。すぐに暗殺騎士の操る〈走狗〉によって殺されたのだと判明し、ファルクとニコラ、そしてアミーナは状況を分析、〈走狗〉を特定するために行動し始める。操られている自覚はなく領主を殺した際の記憶も失っている〈走狗〉を見つけるのに必要なものは、論理の力である。

 

 怪しげな魔法が登場し、実際にその力を振るう場面も度々ある。しかし論理的に推定することによって犯人を特定する物語は、数学の証明問題のように答えを浮かび上がらせる。不死身の海賊たちが島を襲撃し、青銅の巨人がそれらを薙ぎ払い、素早い身のこなしで敵を翻弄する従者は剣の達人であり。ミステリでファンタジーな個人的に二度美味しい。なにより推理の結末はミステリとして十分に驚きをもたらすのだから、興味を持ったら是非とも読むべきである。

 また最近、文庫になったのでお求めやすい。上下二冊あるが、一気に読み進められるだろう。